(2017年10月12日更新)

ご報告:御蔵でのネコ捕獲 2017.9.11~12

8月24日~25日の捕獲試行に引き続き、今度は捕獲器20台を使用した本格的な捕獲です。今回の捕獲の目的は、捕獲試行の結果を踏まえた新しい方法で、御蔵島村の捕獲担当者と一緒に捕獲してみることにより、ノウハウを伝えることです。その捕獲担当者は、ネコとネズミの研究で御蔵島にフィールドワークに来ている大学院生のSさん。今回は「有志の会」長谷川と草地、Sさん、Sさんの研究室の先輩であるNさんの4人で行いました。
初日の9/11は、まずは午前中、20台の箱罠(捕獲器)に新聞紙を巻く作業から。

捕獲器は、島の東側(都道側)に12台、島の西側(村道側)に8台、過去にネコ捕獲率が高かった場所に設置しました。前回に引き続き、ネコの挙動を記録するために暗視カメラ「ねこかむ」も設置。



 

しかし午後4時過ぎから激しい雨となり、全身ずぶ濡れになりながらの作業となってしまいました。でも午後5時過ぎには無事に設置完了♪翌朝の箱罠回収まで、ドキドキです…

 

昼間は滅多に姿を見せない野生化ネコさんですが、南郷地区で1度だけお見かけしました。左耳がカットされており、以前村役場が捕獲して、不妊去勢手術をしてリリース(TNR)したネコと思われます。


 

そして、翌9月12日。軽トラックで昨日仕掛けた場所を回り、捕獲器を回収します。まずは島の東側のいなさ地区から。いきなり1発目から、いました!!端正な顔立ちのキジトラさんです。毛並みもよく、堂々たる体格。体重は5kgといったところでしょうか?


 

しかし、その後しばらくは空振りが続きます。昨晩の雨と強風で、新聞紙が無残にはがれてしまっている捕獲器も多数。天候がめまぐるしく変化する御蔵島での捕獲は、雨・風対策を考慮する必要がありそうです。


 

後半に回った島の西側に仕掛けた捕獲器は、特に新聞紙の損傷がひどく、今回はこれ以上の捕獲は無理かな、と諦めかけていたところ…いました!
茶トラの美人さんです。


 

結局、今回捕獲できたのは、この2匹でした。キジトラの子は「うずら」、茶トラの子は「みたらし」という名前(仮称)をつけてみました。
前回8月の捕獲試行(5ヶ所に箱罠を仕掛けて1匹捕獲)と合わせると3匹。島の方に「餌となるオオミズナギドリがたくさんいる夏場のネコ捕獲は難しいよ」と言われ続けた中で(しかも11日の夜は大雨と強風の悪天候)、まずまず満足できる結果と言えるでしょう。

 

ちなみに、今回も前回同様、一部の捕獲器の前に赤外線暗視ビデオカメラ「ねこかむ」を設置していたので、その映像を公開いたします。うずらとみたらし以外にも、捕獲器に興味を示したネコが何匹かいたみたいです。

 

ところが…12日の昼出発の船で内地に連れ帰ろうと、ネコたちをキャリーケースに入れたところで、「本日強風のため欠航します」のアナウンスが!!
しかたがないので、ネコたちをキャリーケースから村のネコ一時待機所に移し、一段ケージに入れてトイレとご飯とお水を準備。一晩だけの仮宿だけど、リラックスして過ごしてくれるといいなぁ、と願いつつ、宿へ戻りました。


 

翌日13日は、無事に船が着岸し、ネコたちを連れて内地に戻ることができました。うずらさんとみたらしさんは、医療措置が完了するまで高円寺ニャンダラーズさんの事務所に預かっていただき、その後はぼくの家に引っ越してきて、前回捕獲したキキさんとともに、人と一緒の暮らしに馴れる練習をする予定です。


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うずらさんとみたらしさんが島を出て約20日後の10月3日。いよいよニャンダラーズさんの事務所から我が家に引っ越してくることになりました。

高円寺のハナ動物病院までニャンダラーズの佐藤さんにネコたちを連れてきてもらい、太田先生に2回目のワクチン接種と血液検査、マイクロチップ挿入をやっていただきました。うずらさんもみたらしさんも、まだまだ人間の世界に馴れていないため、少しかわいそうだけど、洗濯ネットに入ってもらっていました。しかし、これまでいろんなタイプのネコたちに対応してきた太田先生は、流石に手慣れたものです。


 

無事、我が家に着きました。
特に臆病なみたらしさんは、トイレや段ボールハウスに籠城中。やんちゃなうずらさんは、たまにケージの中をしっちゃかめっちゃかにしてくれます。一日も早く、この2匹が我が家での生活を「実は楽しいじゃん!」と思うようになってくれるといいなぁ。



 

この子たちと一緒に暮らしながら、生まれてから数年間人と接することなく森の中で暮らしてきたネコが、どのようにして人に馴れていくのか(あるいはずっと馴れないのか)を、まずは自分で確かめてみたいと思います。
そして、ある程度馴れる目処がついてきたら、キキさん、うずらさん、みたらしさんを、正式な家族が決まるまで「一時預かりボランティア」さんにお預けできたらと考えています。

(それができれば、また御蔵島で新しくネコが捕獲された場合、ぼくがそのネコを預かることができます♪)

 

「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」では、今後も御蔵島の野生化ネコの受け入れを行いつつ、島外持ち出し以外のネコ対策についても、積極的に提案していく予定です。

 

(長谷川 潤)


ご報告:御蔵でのネコ捕獲試行 2017.8.24~25

私たち「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」は、動物保護団体「高円寺ニャンダラーズ」および「ハナ動物病院」(いずれも東京都杉並区)と一緒に、御蔵島村役場と共同で野生化したネコの捕獲方法の改善に取り組んでいます。このたび、「有志の会」長谷川と草地、「ニャンダラーズ」佐藤洋平さんの3人で、御蔵島へネコ捕獲の試行に行ってまいりました。


御蔵島でのネコ捕獲は、「箱罠」と呼ばれる捕獲器(写真参照)に餌を入れてネコをおびき寄せて捕える方法で、ほぼ通年実施されています。しかし4月から12月にかけては、餌となるオオミズナギドリが島に数多く滞在しているため、ネコはなかなか捕獲器に入ってくれませんでした。このため、ネコの捕獲は主に1~3月に行われていました。写真は今年2月の捕獲の様子です。

私たちは、オオミズナギドリがいる春から秋にかけてネコを捕獲する方法を模索していました。1年を通して捕獲作業ができれば当然保護できるネコの総数も増えます。またこの時期は、ちょうどドルフィンスイムができる時期でもあり、例えばドルフィンスイマーの方がボランティアで御蔵島から竹芝までのネコの移送に付き添ってくれれば、捕まえたネコを迅速に内地に送ることもできます。しかしこれまで、春から秋にかけての捕獲は苦戦を強いられてきました。1ヶ月間ほぼ毎日、罠を十数個かけ続けて、捕獲できた頭数は1頭ということもあったそうです。

今回の試行のメインは、捕獲器を新聞紙でくるんでカムフラージュする新しい方式の効果を試すこと。カムフラージュしていない裸のままの捕獲器(従来島で行なわれていた方式)と並べて設置し、ネコがどちらの捕獲器に入るかを試します。また、山階鳥類研究所より借用した赤外線暗視ビデオカメラ「ねこかむ」で、捕獲器を前にしたネコの行動を観察・記録します。
24日午前中は、村役場の担当者と段取りの打ち合わせを行い、その後「ねこかむ」のセッティング作業。午後1時からは、捕獲器のセッティングを行いました。捕獲器を積み込んで、いざ出発!


捕獲器と「ねこかむ」を、御蔵島の車道沿いの合計5ヶ所に9台設置しました。



捕獲器をしかけるために車道を走っていると、そこかしこに、ネコに襲われたと思われるオオミズナギドリの死骸がありました。


午後4時に捕獲器と「ねこかむ」の設置が完了。夜のうちにネコが上手く入ってくれることを願いながら、広大な太平洋に沈む夕日を眺めます。


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翌日の8月25日午前。前日捕獲器を仕掛けた場所を回って捕獲器を回収します。まずは島の西側の村道沿い2ヶ所から。…うーん、ネコは掛かっていませんでした。気を取り直し、島の東側「いなさ」地区へ。ここには3ヶ所に捕獲器を仕掛けています。
1ヶ所目…空振り。2ヶ所目…これも空振り。


 

いよいよ、今回は成果なし、を覚悟したその時…いました!
いなさの村道の終点近くに仕掛けた捕獲器の中に、黒い影が!!


黒ネコさんです!!
我々は、この黒ネコさんを「キキ」と名付けました。
「黒ネコなら“ジジ”でしょ!」という突っ込みはあるかと思いますが(笑)、それではあまりにもストレートすぎでつまらないので、少しだけ捻りを入れてみました。

 

さて、今回の捕獲試行の目的は、前述のように捕獲器を新聞紙でくるんでカムフラージュする新しい方式の効果を試すことでした。その効果はどうだったのでしょうか?捕獲器の前に設置した赤外線暗視ビデオカメラ「ねこかむ」に記録された、ネコたちの行動を公開しちゃいます。

映像には、捕獲されたキキを含めて4匹のネコが写っていました(その他、ネズミ1匹とオオミズナギドリ1羽)。4匹のうち、捕獲器に興味を示した3匹は、いずれも新聞紙でくるまれた方の捕獲器に首を突っ込んでいました。「新聞紙作戦」は、どうやら効果あり、のようです。

 

次回は9月11日~12日に来島し、今度は御蔵島村から委託を受けている捕獲担当者の方と一緒に、捕獲器20台を使用して本格的な捕獲に挑戦する予定です。長年の課題であった春~秋の御蔵島でのネコ捕獲に一筋の光明が見えた今回の捕獲試行。今後は、ネコを減らすための捕獲以外の方法も模索・提案していきたいと思います。


(長谷川 潤)


無人カメラが捉えた御蔵島のネコとオオミズナギドリ

御蔵島の森の中では、山階鳥類研究所が自然保護助成基金の活動支援によって設置した無人カメラ「ねこかむ」が、野生化したネコの映像データ収集を続けています(ぼくが訪れた2月初旬には全7か所に設置されていました)。映像データは、山階鳥類研究所と御蔵島観光協会が協力してデータ分析を行い、ネコの行動観察や個体識別に利用されています。このたび、山階鳥類研究所および御蔵島観光協会より、大変貴重な映像データの一部を提供していただきました。ぜひ多くの方に御蔵島の野生ネコの「今」を見ていただきたく、ここに公開させていただきます。

「ねこかむ」は、昼間は可視光線、夜は赤外線を撮影する設定になっています。動物など動くもの(ネコやオオミズナギドリ)がカメラの前を横切ると、自動的に赤外線ライトが点灯し、撮影が開始されます。ただし撮影時間は20秒。20秒を過ぎてまだカメラの撮影範囲内に動物がいても、20秒ぴったりで撮影が終了する仕組みになっています。1つめの映像のラストには、「思わず息を飲む」シーンが出てきます。しかしこの「20秒ルール」のため、「結末」がどのようになったのかは不明です。

野生ネコ調査を主な目的として設置されている「ねこかむ」ですが、撮影された映像の中には、オオミズナギドリが写っているものもあります。次にご覧いただく映像は、2016年10月15日に「ねこかむ」によって撮影されたものです。オオミズナギドリは、離陸と着陸が大の苦手。離陸の際は、大きな木に足でよじ登って、木の上からグライダーのように滑空して飛び立ちます。そして着陸時は、木の幹などに体当たりして「落ちる」のです。

影像の前半は、早朝にオオミズナギドリたちが離陸に使う木に歩いて向かう時のものですが、1つめの映像と同様に「思わず息を飲む」最後の10秒は、夜になって空から「落ちて」きたばかりのオオミズナギドリと思われます。そしてこちらも、このオオミズナギドリがその後どうなってしまったのかは、映像には記録されていません。

ネコがオオミズナギドリを捕食する決定的なシーンは、今のところ「ねこかむ」では捉えられていません。しかし、肉食獣のいない環境で繁栄してきた、このおっとりした鳥が、俊敏で木に登ることもできるネコから逃れるのは容易ではないことが、これらの影像からお分かりいただけたのではないかと思います。

 

(長谷川 潤)


オオミズナギドリ観察ナイトツアーに参加しました 2017.4.15

長谷川は4/15(土)に、御蔵島でオオミズナギドリを観察するナイトツアーに参加してきました。東京都の認定ガイドである菱井徹さんにガイドをお願いしました。19時~21時の約2時間のコース。昼間に泳いで疲れた身体を休めてから参加できるので、ドルフィンスイマーにもお勧めです。ちなみに認定ガイドの規定で、参加人数はガイド1人につき7名までと決められています。

 

19時に車で迎えに来てもらい、ぼくらのグループ3名+他2名でツアーがスタート。まずは集落から東に向かって車で走りながら、道路際に「落ちている」オオミズナギドリを探します。オオミズナギドリは鳥なのに、離陸と着陸が大の苦手。離陸の際は、大きな木に足でよじ登って、木の上からグライダーのように滑空して飛び立ちます。そして着陸時は、何と!木の幹などに体当たりして「落ちる」のです。木の幹にぶつかって脳震盪でも起こしているのか、春から秋にかけての御蔵島では、夜に海での漁から帰ってきたオオミズナギドリが、道路際に落ちてうずくまっているのをよく見かけます。今日も何羽かのオオミズナギドリを道路で見かけることができました。動画は、オオミズナギドリにストレスを与えないよう赤外線ビデオカメラで撮影。つぶらな瞳でキョロキョロあたりを見回す様子が、なんとも愛らしいです。

道路での観察の後は、御蔵島の森と海が俯瞰できる場所に移動して、すべての明かりを消して、空と森の音に耳を澄ませます。目が慣れてくると、時折空を黒い影が横切るのが見えます。森の中からは、オオミズナギドリの甲高い声が、時には近く、時には遠く、聞こえてきます。道路沿いから少しだけ森に入ってみると、木の根元のそこかしこに穴が空いています。これがオオミズナギドリの巣穴です。この巣穴に帰ってきたオオミズナギドリを1羽だけ見ることができたのですが、(多分)すぐに穴の中に入ってしまい、残念ながら撮影することはできませんでした。ですが、夜の森に息づく多くの生命の気配を存分に感じることができました。

ツアーのラストは、港の桟橋の先端に行って、島に帰還するオオミズナギドリの飛翔とスターウォッチングを堪能しました。桟橋で見るオオミズナギドリの飛翔は、山で見た時は「黒い影」だったのに対し、「白い流れ星」のように見えます。桟橋ではオオミズナギドリを下から見上げるため、白いお腹が町の灯に照らされて白く見えるのです。そして御蔵島に初めて来た方は、オオミズナギドリを流れ星と間違える方もいるようです。

御蔵島来島20年目にして、はじめて体験したオオミズナギドリの観察ツアー。結論からすると超オススメです。基本的に真っ暗闇だからこそ、五感をフルに使って御蔵島の生命の息吹を感じることができるからです。しかし、ガイドの菱井さんによると、夜空を飛翔するオオミズナギドリの数や、森から響いてくる鳴き声の数は、この5年間で急激に減っているとのこと。野生化した元飼いネコ(とその子孫)による食害の深刻さをヒシヒシと感じているそうです。

 

この愛らしい鳥の存在を一人でも多くの方に知っていただき、御蔵島の野生ネコ問題を一緒に考えてくださる方が増えてくれると嬉しいです。今季に御蔵島でドルフィンスイムをされる方は、ぜひ一度、オオミズナギドリ観察のナイトツアーに参加してみてください♪

 

(長谷川 潤)


御蔵島ネコ探訪 2017.2.5~7

長谷川は、御蔵島のオオミズナギドリを捕食する野生化したネコの状況を直に確認するため、2/5~2/7の3日間、御蔵島で長年オオミズナギドリの研究を続けている山階鳥類研究所の岡奈理子上席研究員に同行しました。そのレポートをお届けいたします。

参考:オオミズナギドリと野生化したネコの今

 

2月5日(日)午前6時頃、無事御蔵島に上陸することができました。ここ1ヶ月ほどは風の強い日が多く、定期船の欠航する日が多かったのですが、この時期としては珍しい凪の海。ポルカ(=一緒に暮らしている御蔵島出身のネコ)のご加護でしょうか?(笑)

 

そして、この日はさっそく、岡さんのフィールドワークに同行させていただきました。本日のミッションは、山沿いの道路沿いに仕掛けられたノネコ捕獲器のチェックと、野生ネコの糞の採取です。前日の2月4日から始まった今季のネコ捕獲。まずは、不妊去勢手術場も兼ねた一時保護のための小屋に向かいます。小屋の中には、捕獲されたばかりの9匹のネコがいました。「シャー!フー!!」と激しく威嚇してくる子、おびえて尻込みしている子、不安げながらも落ち着いている子など、様々でした。ちなみに、不妊去勢済みの印である「耳カット」がされたネコは、基本的に山に再リリースされます。まだ耳カットされていない若いネコのうち、人に馴れる見込みのあるネコは、本土の動物病院に送られて飼い主探しをします。

そして山沿いの道路端の捕獲器に捉えられていたネコは4匹(餌につられて入ってしまった不運なカラスもいました)。その内、人に馴れてくれそうな子は2匹でした。餌となるオオミズナギドリが不在のこの時期(※)でも、ネコたちは毛艶が良く、体格もしっかりした子ばかりでした。糞の調査は、オオミズナギドリがいないこの時期にネコたちが何を食べているのかを知るのも目的なのです。また、各捕獲器のその日の状態を、詳細にノートに記録しました。

 

※オオミズナギドリは3月から11月にかけて、子育てのために御蔵島に滞在します。

山の中に入ると、そこは日本有数の巨木地帯。巨大なスダジイの根元には、オオミズナギドリの巣穴が所どころに見えます。比較的水平に伸びているスダジイの枝は、地面から飛び立つことができないオオミズナギドリが飛翔するための「滑走路」として使われるのだそうです。そして山道には、野生ネコに襲われたと思われるオオミズナギドリの死骸もありました。 御蔵島で一番大きいスダジイの近くには、ネコを観察するための無人カメラ「ねこかむ」が設置されていました。「ねこかむ」は現在、御蔵島の山の中7か所に設置されていて、ネコの行動観察や個体識別のためのデータ収集を続けています。

御蔵島訪問の2日目と3日目(2月6日と7日)は、御蔵島のオオミズナギドリ保護やノネコ対策に様々な立場で関わる人たちに会いました。その中で、今まで知らなかった島の歴史や、オオミズナギドリやネコに対する島の人たちのいろいろな思いを知ることができました。

断崖絶壁に囲まれ、入り江のある港がない御蔵島は、海が荒れると現在でも1週間以上船が接岸できないことがあります(今回の御蔵行きでも、6日と7日は定期船が接岸できませんでした)。

このような地形のため漁業をするのもままならず、食料の確保は昔からこの島の重要課題でした。そんな状況下で、かつてオオミズナギドリは御蔵島の人々の貴重な食べ物だったそうです。しかし御蔵島の人々はむやみやたらにオオミズナギドリを捕まえて食べていたわけではありません。オオミズナギドリの捕獲についての厳しいルールを自ら作り、この鳥を守り続けて来たのです。このルールでは、捕獲できるのは1年のうち1日だけで、それも巣穴から巣立つ前の雛鳥のみに限られていました。島の人たちが大切に守り続けてきたおかげで、御蔵島は今でもオオミズナギドリの世界最大の繁殖地なのです。

一方で、オオミズナギドリは実は「害鳥」という側面も持っています。オオミズナギドリは木の根元に穴を掘って巣にするのですが、何十万羽もの鳥たちがこれをやるため、森の土壌が変化してしまい、土石流が起こりやすくなってしまったりするのだそうです。フィールドワークで森に入った時も、スダジイの根元などにおびただしい数のオオミズナギドリの巣穴がありました。現在は食料としてオオミズナギドリが捕獲されることは少なくなりましたが、“害鳥駆除”としての捕獲は続けられているそうです。
また、御蔵島では近年ネズミの被害が多くなり、ネズミを捕獲してくれる野生ネコをありがたい存在と感じている方も少なくないようでした。ネコによるオオミズナギドリ絶滅を防ぐためには、繁殖能力のあるすべてのネコを捕獲して、いずれはネコの数をゼロにする必要があると言われていますが、「そこまでやらなくても」という率直な声も聞くことができました。

島の人たちが大切にするものは多様です。その中でも優先順位をつけて「今守るべきものは何か」を明確にするのは、簡単ではないかもしれません。でも、だれかが決断しなければ、オオミズナギドリたちはおそらく御蔵島から姿を消してしまいます。ぼくら御蔵島を愛する島外の人間は、いったい何ができるのか、どこまで立ち入って良いのか…という問いに向き合った3日間でした。

 

(長谷川 潤)