御蔵島のオオミズナギドリと野生化したネコの今

(2022年10月28更新)

イルカと泳げる島として人気の伊豆諸島・御蔵島は、かつてはオオミズナギドリの世界最大の繁殖地でした。春から夏にかけてドルフィンスイムに訪れた皆さんは、夜に大きな声で鳴きながら飛びまわる姿や、道路をよちよち歩いている姿を見かけたことがあるのではないでしょうか?

しかし近年、人間が持ち込んだネコが野生化し、オオミズナギドリたちを脅かしています。1970年代には推定175~350万羽だったのが、2012年夏には77万羽にまで減ってしまいました。そして、環境省生物多様性センターが2016年度に行った調査によると、繁殖個体数は推定11万7千羽まで落ち込んでいます。長年御蔵島のオオミズナギドリを研究している山階鳥類研究所フェローの岡奈理子さんは、このままでは20〜30年でオオミズナギドリは御蔵島から姿を消してしまうだろう、と警鐘を鳴らしています。

岡さんは、初めて御蔵島を訪れた1970年代後半以後、オオミズナギドリの集団繁殖地でネコを見なかったと言います。しかし2000年代に入り、状況は変わります。ネコと鳥の死体が頻繁に見られるようになったのです。2005年には、鶏小屋がネコに襲われ全滅するということもありました。採取したネコの糞には、羽毛が混じるようになりました。このオオミズナギドリの「首無し死体」は、若いネコの狩猟練習によるものと考えられています。これ以降、御蔵島村では、野生化したネコを捕獲して避妊去勢手術を施し森に返す「TNR」という方法でネコの減少を図ってきました。 

10年間で避妊去勢手術を施した数は約4百頭にのぼります。しかし監視カメラの分析結果によると、TNRで手術を施された印である耳カットされたネコが写る割合は約3割。TNRによってネコの個体数を減少に向かわせるためには少なくとも7割以上のネコに手術を行う必要があり、残念ながらTNRはネコの数を減らす決定打にはなりませんでした。またTNRで森に返されたネコたちは、子猫を生むことはできなくても、本来長寿命な動物のため、オオミズナギドリの脅威であることに変わりはありません。しかも、外敵がおらず餌も水も豊富な御蔵島はネコが生きていくのに適した環境であると考えられています。森の中に仕掛けられた監視カメラに映るネコたちは、栄養状態の良さそうな個体が多いそうです。そして監視カメラの映像データの分析結果などから、野生化したネコの数は数百匹と推定されています。  

結局、TNRでは大きな効果は得られなかったため、岡さんは役場が保管するネコの捕獲データを分析し、現状と見通しを役場に説明し、東京都獣医師会などに協力を要請しました。そして2015年度より御蔵島の野生化ネコ対策は、従来の「不妊去勢手術後に再放獣」の他に「島外に持出して飼い主探し」が加わることになるのです。こうして、山階鳥類研究所、御蔵島村、東京都獣医師会の協力により、捕獲したネコの一部を本土に運び飼い主を探す「御蔵島村猫里親事業」が始まりました。 2016年度は年間15頭のネコが持ち出され、東京都獣医師会の協力病院が不妊去勢手術やワクチン接種などの医療措置と馴化訓練を行い、新しい家族の元へと譲渡されました。 一方で日本鳥類学会鳥類保護委員会は、2016年11月に野生化したネコの捕獲を求める要望書を環境大臣、東京都知事、御蔵島村長宛てに提出しました 

しかし、人的リソースや予算等の関係で、御蔵島村猫里親事業によって捕獲・譲渡されるネコの数は年平均12~13頭です。このペースでは、御蔵島のネコの個体数を減少に向かわせることは不可能なため、当会も2017年度から、御蔵島でのネコの捕獲・持ち出し・馴化訓練・飼い主さん探しを開始しました。前述の通り、TNRされたネコは繁殖力がなくともオオミズナギドリの脅威であることは間違いないため、TNRされたネコも捕獲対象にしています。2022年10月までに私たちが森から連れ出したネコは合計157頭。特に近年は捕獲のペースを上げ、2020年度は45頭、2021年度は55頭のネコを捕獲し島外に持ち出しました。そしてこの内103頭が既に「家族」として人の家に迎えられています。しかしこのペースでも多産なネコの繁殖スピードに追い付くことが出来ず、ネコの数を減らすには至っていないと考えられます。ネコの数を減少に転じさせるため、今後は年間100頭以上の捕獲を目指しています。

私たちが連れ出した野生化ネコたちは、当会のシェルター「森ネコの部屋」(神奈川県厚木市および茨城県つくば市)、連携している保護猫カフェ「たまゆら」(東京都中央区日本橋人形町)、一時預かりボランティアさんのお宅、協力団体である「高円寺ニャンダラーズ」の事務所などで暮らし、それぞれ人に馴れる訓練をしています。ネコによってかなり個体差はありますが、ほとんどのネコは既に普通の家ネコと同じくらいに人に馴れていて、「野生で生きてきた大人のネコは人には懐かない」というジンクス(?)は、ただの思い込みにすぎないのかもしれないと感じています。

 

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